スコープはどうやって決めるんだろう?
限られた時間の中で目的を達成するために、プロジェクトマネジメントでは「スコープ」を決めるというお話を以前ご紹介しました。今回は、スコープはどうやって決めるのか。この「スコープ確定までのプロセス」に焦点をあてて解説します。
スコープとはなにか
スコープ確定のプロセスをご説明する前に、スコープとはなにかおさらいをしましょう。以前「スコープってなんだろう?」で解説したように、スコープとは「やりたいこと(要求)」から「やれること(要件)」を絞った成果物とタスクの対象範囲です。プロジェクトの目的を期限内に達成するためには、やれることの範囲を絞り、スコープを確定する必要があります。
スコープ確定までのプロセスは、大きくわけて「要求を洗い出す」と「要件を絞る」の2段階で構成されています。要求を洗い出す段階では、プロジェクトの目的・目標からやりたいこと、アイデアをできるだけ漏れなく洗い出します。一方の要件を絞るフェーズでは、優先順位、予算、技術的な現実性を踏まえ、洗い出された要求の中から期限までにできることを絞り込みます。
スコープ確定のプロセス1. 要求を洗い出す
あなたのところに、お客さんから「ウェブサイトをつくってください」と依頼がありました。このようなプロジェクトの場合、お客さんが「こういうことをやりたい」という要望をまとめた提案依頼書(RFP)を提示するところからプロセスがはじまるというのが通例です。
しかし、この依頼書の中で目的・目標が定かになっていなかったり、目的とやりたいことにズレが見られることもしばしば。本来、スコープ確定のプロセスは、明確に設定された目的・目標をインプットに始まりますが、適切な目的・目標が定まっていないときには、追加のヒアリングを実施したり、こちらから提案をするなどして、お客さんが本当にやりたいことはなにか、目的・目標を再設定しながら要求整理をする必要があります。
例えば、「売上を伸ばしたいからウェブサイトをつくりたい」とお客さんに言われても、どれくらい売上を伸ばしたいのかという数値目標が決まってないとスコープを絞ることができません。そうした具体的な数字や、ウェブサイトにどんな役割を期待しているかなどを依頼を受ける受注者がヒアリングし、「売上を前年比30%にしたい」「そのためにECサイトの訪問数を何%伸ばしたい」といった、目で見て分かる具体的な目標を設定してもらうのも要求整理の大事なプロセスの一部です。設定された目標をもとに、「訪問数を伸ばすためにSEO対策をしてほしい」といった要求を洗い出していきます。
要求を洗い出す段階で「制約」を明らかにしておく
要求整理の段階では、要求と一緒にもう1つ、プロジェクトの「制約」となるものを洗い出しておく必要があります。「制約」とは、プロジェクトでコントロールできない条件のことをいい、社会的な制約(例:PEST=Politics(政治)、Economics(経済)、Society(社会情勢)、Technology(技術))とクライアントが提示する制約(例:QCD=Quality(品質)、Cost(費用)、Delivery(納期))の2種類があります。
具体的には、法令や政令、業法などで禁止されている事項がある、イギリスがEUから離脱したために著しく円安になっているなど、プロジェクトでコントロールできない条件をこの段階で洗い出し、スコープの確定に影響が出ないようにします。特に、社会的制約はお客さんへのヒアリングでも明らかにならないことがあるので、場合によっては外部環境分析をする必要が生じます。
なお、プロジェクトがコントロールできない「制約」に対し、依頼を受ける側(受注者)が提示する予算やリソース、達成可能な品質の基準といった条件は「前提」といい、社会的要素や依頼を出す側(発注者)で課せられる「制約」とは区別されます。
スコープ確定のプロセス2. 要件を絞る
要求と制約を洗い出したら、次に受注者側から出す前提条件に照らし合わせ、優先順位をつけてプロジェクトの期間内にできること(要件)を絞り込みます。
要件を絞り込む段階では、受注者側の前提に照らしてどれくらいのクオリティのものをつくるか、予め決めておくことが大切です。ウェブ制作の例を挙げると、ブラウザのバージョンはIE8以下に対応しない、タブレットには対応はするが表示確認はしない、というように、できること・できないことを明確にし、発注側と品質を合意しておくことでトラブルを防ぐことができます。
このように、プロジェクトの目的に従ってやりたいことを一覧化し、一覧化したものを実現するとどういう成果物ができあがるかを洗い出し、その成果物をつくるために必要なタスクを見積もって作業量を明らかにすることでスコープが確定します。
スコープを決めるにあたって注意したいこと
成果物を作るためには、「ものをつくる」という役割の他にも、課題管理やスケジュール管理といったプロジェクトマネジメントの役割が必要です。スコープを確定するプロセスでは、こうしたプロジェクトマネジメントに関する要件が抜け落ちないよう注意しましょう。プロジェクトマネジメントに関する要件を誰が担うかを曖昧にしていると、外部会社のスケジュール管理を誰も担当していなかったためにプロジェクトの期限に間に合わなかったなど、プロジェクトの進行に支障をきたすおそれがあります。
プロジェクトマネジメントに関する要件でも、「ものをつくる」ための要件と同様に、課題管理表、WBSなどプロジェクトマネジメントに関する成果物を漏れなく洗い出し、必要なタスクを見積もり、誰が何をするのかを明確にする必要があります。
「スコープ」確定までのプロセス ~身近な例~
ここまで、スコープ確定までのプロセスをご説明しました。これを、分かりやすいよう身近な例で検証してみましょう。以前「スコープってなんだろう?」という記事の中でスコープについて解説したときと同じように、引越作業を例に挙げます。
あなたは転勤に伴い引越をすることになりました。そこで、引越業者A社に引越を依頼します。ここで、引越作業についての要求と制約を以下のように洗い出し、整理しました。
要求
- 旧居・新居の養生をしてほしい
- 大型家具の梱包・運搬をしてほしい
- 衣類や家電などの梱包・運搬をしてほしい
制約
- ◯月◯日までに引越しを完了したい
- 予算は3万円までしか出せない
- マンションにエレベーターがないため、5階まで手で運んでもらう必要がある
これに対し引越業者A社は、要求・制約をインプットに、「養生はできない」「運搬はするが梱包・荷解きはできない」など、前提をつけて要件(できること)を提示します。
要件
- 大型家具をマンションの5階まで手で運搬する
- 衣類や家電などをマンションの5階まで手で運搬する
前提
- 旧居・新居の養生はしない
- 運搬する荷物の梱包・荷解きはしない
このように、引越業者A社が何を運ぶ、どこまでをするなど量・品質を確定し、作業量を工数として示したものにあなたが合意すれば、スコープが確定となります。
まとめ
- 要求を洗い出すフェーズでは、プロジェクトの目的・目標と制約をもとに要求整理をする
- 要件を決めるフェーズでは、要求をもとに前提や優先順位をつけて「やれること範囲」を絞り、「やらない範囲」を明確にする
- スコープを確定するプロセスでは、プロジェクトマネジメントに関する要件が抜け落ちないよう注意する