「プロジェクトマネジメント」は仕事の場面で使われるマネジメント手法というイメージが強く、日常生活では馴染みがないものと思われがちです。しかし、プロジェクトマネジメントはプライベートにおいても非常に有効。家族生活や仲間同士のイベントなどを円滑に進めるために取り入れてみてはいかがでしょうか。

例えば、今問題となっている「産後クライシス」も、プロジェクトマネジメントを活用すれば防ぐことができるかもしれません。

こんなはずじゃなかった!? 産後クライシスを防ぐプロジェクトマネジメント

産後クライシスを防ぐプロジェクトマネジメント
厚生労働省の調査によると、夫婦が離婚する確率がもっとも高いのは産後2年内。ある教育研究機関の調査でも、子どもが0〜2歳の間に急激に夫婦間の愛情が冷え込んでしまうという結果が出ています。これが、近年問題となっている「産後クライシス」(クライシス=危機、崩壊)です。

「産後クライシス」には産後のホルモンバランスの乱れ、ライフスタイルの劇的な変化、夫の育児参加への不満などさまざまな原因が挙げられていますが、夫婦であらかじめ、なにを、どのように協力し合えばよいかを話し合うことで、少しでも危機を回避することができるはず。

例えば、出産・育児の経験がある方なら誰でも、「子どもを育てるって予期せぬことの連続!」と1度は思われたのではないでしょうか。赤ちゃんが全然寝てくれない、母乳がうまく出ない、といったことからはじまり、職場復帰したいが子どもの預け先がない、仕事に復帰したはいいが子どもがすぐ熱を出して有給休暇を取らざるを得ない等々、次から次へと悩みは尽きません。こうした予期せぬ事態が続くと、心の余裕とともにパートナー同士お互いを思いやる気持ちも失われてしまいます。

これら産後の問題をプロジェクトマネジメントの視点でとらえると、

  • あらかじめ想定できる「スコープ(成果物と作業量)」を夫婦や関係者間で合意できないままプロジェクトを開始したために、認識違いやスコープの抜け漏れによる新たな作業が発生した
  • 必要なスコープが事前に把握できていなかったため漏れていた作業への対応で余裕がなく、さらに予期せぬ課題が発生しても手が回らなかった

と、整理することができそうです
(参考記事:スコープってなんだろう?

すべての予期せぬ課題の発生は避けられませんが、事前に予期できる課題はできるだけ洗い出しておき、スコープを合意しておくことで、体力的にも心理的にも余裕をもって産前・産後を過ごすことにつながります。目の前で次々起こる課題に手いっぱいになり、本当に解決しなければいけない課題を見落とさないためにも、プロジェクトマネジメントを活用して産後の課題を洗い出し、課題の優先順位から計画を立ててみてはいかがでしょうか。

産後クライシスを防ぐ! プロジェクトマネジメントを活用しよう

産後クライシスを防ぐためのプロジェクトマネジメントには、あらかじめ産前・産後に「どんな課題があるか」「成果物として何が必要か」「何を、いつまでにやればいいか」を把握し、最終的に「やれること」を時系列に並べて、夫婦で共通認識を持っておくことが有効と考えます。それでは、産後の生活を具体的にプロジェクトマネジメントの視点で追ってみましょう。

プロジェクトの目的と期限を決める

産後クライシスを防ぐためのプロジェクトマネジメントとひとくちに言っても、なにをもって産後クライシスを防ぐのか、いつからいつまでそのプロジェクトを走らせればいいのかを明確にしておく必要があります。

産後クライシスを防ぐためにどのような「目的」を定めるか、いつまでをプロジェクトの「期限」とするかを、自分たちがこれから思い描く『あるべき姿』に応じて設定しましょう。6カ月で職場復帰して共働き生活を問題なく回す、という目的・期限を設定してもいいですし、あるいは「産後6カ月を期限に、その後3年間の家族のプランを考える」という目的・期限を設定してもいいですね。

ここでは仮に、共働き生活を問題なく回せるようにすることを目的に、出産から職場復帰をする1年間を期限として考えてみましょう。

課題を洗い出す

上で定めた「期限」までに「目的」を達成するためには、プロジェクトの範囲である「スコープ(成果物と作業量)」を確定する必要があります。プロジェクトのスコープを決定するために、まずは「課題」を洗い出してみましょう。

例えば、

  • 育児に必要なグッズがそろっていない
  • 母子定期健診のスケジュールが把握できていない
  • 奥さんがご飯を作る時間がとれない時は旦那さんが作ることになるが、料理の腕に自信がない

などは、産後スムーズに育児に移行するために出産前に解決しておくべき課題です。

出産後は、

  • 職場復帰したいが、保育園・幼稚園が決まっていない
  • 復帰後の勤務時間や仕事内容について、職場の上司との合意がとれていない
  • 旦那さんと子どもが触れ合える時間が少ないので、勤務時間や有給休暇の取得について検討する必要がある

といった課題が挙げられます。

このように、プロジェクトのスコープを決めるために事前に洗い出す課題もあれば、実際にプロジェクトがスタートしてから解決すべき課題が浮き彫りになることもあります。「いざ赤ちゃんを定期検診に連れて行こうと思ったら、明日の天気予報は大雨。祖父母にお願いして車で送迎してもらわなければいけない」というような場合は、後者の「プロジェクトがスタートしてから浮き彫りになる課題」に当たります。

必要な成果物を洗い出す

「奥さんの職場復帰後、共働き生活を問題なく回せるようにする」というプロジェクトでは、成果物が少イメージしにくいかも知れませんが、上に挙げた課題から成果物をイメージしてみましょう。
(参考記事:成果物ってなんだろう?

「育児に必要なグッズをそろえる」という課題からは、必要なグッズのリスト、子どものベッド、バスタオル、抱っこひもなどが導き出されますが、これらはすべてこのプロジェクトの「成果物」といえます。奥さんが職場復帰するに当たって子どもを保育園へ預けることになったら、保育園の入園承諾書や保育園グッズも「成果物」として挙げられますね。

上記の育児グッズの場合、「課題」から洗い出される成果物もあれば、「どうしても欲しい子どもベッドが廃盤なので、オークションやリサイクルショップで探す」というふうに、成果物から「課題」が洗い出されることもあります。

プロジェクトのマイルストーンを洗い出す

「課題」「成果物」を洗い出したら、プロジェクトのマイルストーンを設定します。プロジェクトの期限は「出産から1年後の職場復帰」なので、そこから逆算してそれぞれの節目にどんな意思決定が必要か、どんな成果物が形になっている必要があるかを考えましょう。

例えば、職場復帰にあたって保育園に入れたい場合、

  • 保育園の下見をする(成果物として、下見した際のメモをとる)
  • 保育園の申請書類を手に入れる
  • 職場の上司と勤務時間について合意をしておく(成果物として、勤務時間の合意事項をしメール・書面に残す)
  • 万一のときのお迎え代行の合意を祖父母にとっておく(成果物として、話した日時をメモしておく)
  • 就労証明書など必要書類をそろえる

など、保育園に入園するために必要な意思決定や、書類といった成果物がいつまでに必要かを明らかにします。こうして明らかになった「いつまでに必要か」のタイミングがマイルストーンです。

その際、プロジェクトのメインとして動く夫婦2人だけで意思決定せず、職場の上司や祖父母などマイルストーンに大きな影響を与える人たちと「このマイルストーンではこの意思決定をしてほしい」「このマイルストーンではこの成果物が必要」という内容をきちんと合意形成しておくことが大切です。

このようにマイルストーンを設定することで、例えば「認可保育園の定員に空きがない」という事態が起きても、認可外保育園や幼稚園などにも幅を広げて預け先を探すという判断を、余裕を持って下すことができます。

(参考記事:スケジュール管理って何をするんだろう? ~スケジュール管理の「準備」と「運営」+4つのポイント~

成果物と課題からタスクを洗い出し、スコープを確定する

マイルストーンまでに必要な成果物や課題が見えたら、必要なタスクを洗い出します。

例えば、保育園の送り迎えがあるので時短勤務を希望する場合、職場の上司に合意を得なければいけません。そこから、「職場へ行って上司と面接をする」というタスクが洗い出されます。

そうして洗い出したタスクに前後関係をつけてスケジュール化することによって、「作業量的には可能だがスケジュールの都合で無理だ」というようにできることが絞られ、スコープが確定します。

例えば、先ほどの保育園の入園準備では、

  1. 夫婦で保育園の下見に行く
  2. 職場に時短勤務の許可をもらうために上司と面接する
  3. 下見の内容や時短勤務の可否から保育園を決定する
  4. 入園申請書類に記入する
  5. 必要書類をそろえる
  6. 申請書類一式を提出する

というように、タスクに前後関係をつけてスケジュール化し、スコープを確定します。こうしてスコープが確定して初めて、作業量を把握することができます。
スケジュールと作業量を前もって把握することができていれば「この時期は手が足りないので、人にお願いできる作業は依頼する」「優先順位の低い作業は省く」といった調整ができるので、余裕を持って産後を過ごすことができそうですね。

産後クライシスを防ぐリスクと対策

産後クライシスは、産後間もない奥さんの心身の疲労や夫婦間のコミュニケーション不足が引き金になることもあります。

生まれたばかりの赤ちゃんとの生活は昼夜逆転で、奥さんはヘトヘト。24時間赤ちゃんにつきっきりで、自分の時間もありません。そうした状況は産後クライシスにつながりかねませんので、リスクをとらえ対策を打つことが必要です。

例えば、月に1回は奥さんが自由に外出できる「息抜きの日」をつくる、新生児期は旦那さんが有給を取りやすいよう仕事を調整するなど、産後クライシスにつながるリスクを取り除く対策を夫婦間で前もって合意しておきましょう。

まとめ

今回の事例に限らず、産後こうありたいという姿を夫婦で思い描き、そのために重要な成果物、課題、リスクなどを洗い出して備えることは、心の余裕につながります。また、「やること・やらないこと(スコープ)」を取捨選択し、タスクを自分ができる範囲内に抑えておけば、急な課題発生にもあわてずに対処できるというメリットにもなります。その結果お互いのストレスが軽減され、思いやりをもって接することができれば産後クライシスを防げるのではないでしょうか。

これからご出産を控えていらっしゃるご夫婦のみなさんに、プロジェクトマネジメントがお役に立ちますように。 

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