なぜ、課題管理がマネジメントの中心なのか?
「Think! MANAGEMENT.」でお伝えしているマネジメント理論では、プロジェクトのインプットとなる「課題管理」を、マネジメントの中心と定義しています。今回はマネジメントにおける課題管理の重要性について見てきましょう。
マネジメントの入口であり、ベースとなる「課題管理」
以前「プロジェクトマネジメントの3つのツボ」の記事で、プロジェクトマネジメントにおいてはインプットとなる「課題管理」、プロセスとなる「スケジュール管理」、アウトプットとなる「成果物管理」が軸となるというお話をしました。このうち、プロジェクトの入り口となりベースを成すものが「課題管理」です。
もしもあなたにプロジェクトマネジメントに関する知識がなかったとしても、「課題」を1つ1つ洗い出し、1つ1つを丁寧に解決していくことで、最終的には目的地にたどり着くことができます。
なぜなら、「スケジュール管理」や「成果物管理」はもともと、「期限内に目的を達成するためのスケジュールが決まっていない」「成果物の合意がとれていない」といった「スケジュールに関する課題」「成果物に関する課題」の発生量をできるだけ減らすために行うものだからです。
プロジェクトマネジメントには上記3つのツボ以外にも「スコープ管理」「品質管理」「体制管理」などの管理機能(各カテゴリごとに管理する単位)がありますが、こうした手法が生まれた背景には、それぞれの管理機能で必ず発生することが想定される「課題」の量を減らすという目的があります。
例えば「品質管理」では、「品質の基準が決まってない」「障害率が高い」「欠陥率が高い」「レビューやテストが効率的にできない」など、品質に関する「課題」を想定し予め計画として組み込んでおくことで、実行中の予期せぬ課題の発生量を減らし、プロジェクトをより安全に運営することができます。
「計画」と「実行」での課題管理
プロジェクトには大きく分けて、「計画」と、計画を現実にしていく「実行」の2つの側面があります。よく耳にする「PDCA」の「PLAN」と「DO」にあたる部分ですね。
「計画」と「実行」のどちらにおいても、課題管理は重要な役割を果たします。
計画を作るための課題管理 ~課題を洗い出し、計画のインプットにする~
計画はPDCAのP=PLANに当たりますが、例えば入社間もない新入社員に「プロジェクトの計画を立てろ」と命じたとしても、新入社員は「なにを、どこから手をつけていいのか」途方に暮れるでしょう。なぜなら彼はそのプロジェクトでどんなタスクを実行し、どんな成果物が得られたらよいのかが分からないからです。
しかし、計画を立てる前に課題を洗い出し、それら課題を解決するために必要な成果物とタスクが把握できれば、プロジェクトの計画作りで途方に暮れることを防げます。
もしも計画の時点で課題を洗い出さないままタスクを引き、スケジュールを立てた場合は、計画を実行に移した段階で、「タスクの全体量の認識が違い、遅れている」「この成果物はイメージと違う、目的に合っていない」「体制がフィットしていない、人手が足りない」といった多くの課題が発生してしまいます。
また、プロジェクトの目的は、課題の発見と解決の積み上げによって達成されます。
(参考記事:課題管理ってなんだろう?)
課題を洗い出さないまま計画を立ててしまうと、目的に関係のない成果物やタスクばかりを計画してしまいかねません。課題をインプットに計画を立てることで、より確実にプロジェクトの目的を達成することができます。
例えば、あなたは晴れて婚約をし、結婚披露宴を開くことになりました。
この場合、「◯月◯日に結婚披露宴を開き、出席者に楽しい一日を過ごしてもらう」ことがプロジェクトの目的と期限になります。プロジェクトの計画を立てる際にはまず「課題」を洗い出します。
- チャペルでするか、神前式にするか、人前挙式にするか、「式をどのような形式にするか?」が決まっていない
- 結婚披露宴の招待人数が決まっていない
- 披露宴の場所が決まっていない
- 結婚指輪を買うか、買わないか? 決まっていない
- 挙式までに自分たちで準備が必要な成果物がわからない
- 挙式の内容を決めるにあたり、合意が必要な人が洗い出せていない
- 両親からどれくらい予算を援助してもらえるか、確約がない
- 式場の予約は何カ月前までにすれば間に合うか?マイルストーンがわからない
こうした課題に対し、2人で必要な成果物とタスクを洗い出して、計画を立てていきます。
ここで「挙式までに自分たちで準備が必要な成果物がわからない」という課題を洗い出せないまま、計画の実行(挙式の準備)に移ったとしましょう。
結婚披露宴まで間がないタイミングで「自分たちで準備が必要な成果物があるが、準備ができていない」という課題が初めてわかり、すでに決まったスケジュールの中に「指輪をのせるリングピロ―を作らなければならない」「挙式のBGMはあらかじめデータで準備しなければならないが、選曲してデータ化する時間がない」といった課題を解消するためのタスクを新たに組み込まなければなりません。このように、計画段階で課題の把握ができていないと、実行時に大きくつまづくことがあります。
計画を実行するための課題管理 ~課題を見つけて解決する~
課題をインプットに計画が立てられたら、実行に移ります。実行の段階では、品質管理や体制管理など各管理機能から発生した課題を解決することが課題管理の大きな役割になります。つまり、各管理機能を支えるベースに課題管理があるのです。
プロジェクト実行中は、課題管理機能と各管理機能とを往復する
計画時にどんなに漏れなく課題を洗い出しても、実行してみると「スケジュールが遅れている」「外注会社の品質がよくない」「品質管理のルールがうまくいっていない」などの新たな課題は必ず発生してしまいます。プロジェクトの実行中には、スケジュール管理、品質管理、体制管理など各管理機能の中で発生した課題を拾い上げ、それらを解決したうえで再びプロジェクトのレールに乗せることが、課題管理の役割です。
たとえば、プロジェクトの進行中、「品質管理のルールが適切でない」という課題が上がったら、解決策として「品質管理のルールの見直し」というタスクを実行します。こうして見直された新しいルールを品質管理機能に組み込むみ、プロジェクトを進行していきます。
同じように「スケジュールが遅れている」という課題が上がったら、解決策となるタスクを検討・実行し、スケジュールの遅延を解決した上で、改めてスケジュール管理を進めていきます。
ここで、上に挙げた結婚披露宴の例で、計画を実行する際における課題管理について見ていきましょう。
挙式の準備を実行する際には、計画に基づいて
- 会場の装飾を決める
- ウェディングドレスの選定をする
- お料理のメニューや出す順番を決める
- 招待者を選ぶ
などのタスクを1つ1つ実行していきますね。
ここで、お料理のメニューと当日の招待者のリストアップを終えたあと、実は招待者の中に重度のアレルギーを持つ方がいることが判明しました。「料理のアレルギー対応ができていない」という新たな課題が浮かび上がったわけです。
「料理のアレルギー対応ができていない」という課題を解決するために「アレルギー対応が可能か式場に確認する」というタスクが増えたので、スケジュール管理の中で他のタスクとの前後関係が必要となります。また、プロジェクトの成果物には「アレルギー対応した料理」が増えますので、プロジェクトの成果物一覧にあたるもの(結婚式の場合は、式場から出される見積もり明細など)にも追記し、式を挙げる側と式場側とで合意する必要があります。このように、プロジェクトの実行中に見つかった課題を拾い上げ、「スケジュール管理」「成果物管理」など各管理機能への影響を反映することも、プロジェクト実行中における課題管理の役割です。
まとめ
- 「課題管理」はプロジェクトの計画のインプットであり、実行を支えるベースとなる
- 計画を作るときは、まず課題を発見することで、計画を作るために必要な情報を洗い出し、実行時の課題の発生量を減らすことができる
- 計画を実行するときは、課題管理機能と各管理機能とを往復して課題を解決する