AIやロボットが活躍する未来で、人が「はたらく」姿はどう変わる!?|プロジェクトデザインの実践例
2020年から始まる新しい教育
「新学習指導要領(文科省)」を本格的に読み解き、プロジェクトデザインする!
(将来:“はたらく”姿が変わる)
10年ぶりに文科省による学習指導要領がかわり「アクティブラーニング」という新しい言葉が入っています。その言葉は知っていても、具体的に何をやったらいいかイメージがついていないように感じていますが、みなさんはどのように受け取っていますか?
日本語では「主体的・能動的に学ぶ」という表現とは別に“生きる力”とも表現されていますが、いったいどういうことなのでしょうか?
変化の早い未来を生きていくために、「しごと」は、「労働」は、「はたらく」は、わたしたちとどう関係するのか?どう変わっていくのか?教育や学びとのつながりを考えながら、未来の私たちが、私たちの子どもたちがどんなしごとでどうはたらくのか、先入観を持たずにゼロから考えてみます。
「はたらく」姿はどうなる?(結論)
結論から言えば、上記の通り、将来のはたらく姿は
- 複数のしごとをかけ持ち、都度初めてのプロジェクト単位ではたらく。
- 時差を利用して24時間の活動が動く。
- 多地点&非同期(同じ時間に、同じ場所は効率性が下がる)。
- 非対面(オンラインが主体で対面は減少する。一度もメンバーと直接会わない場合も。)。
- 経済性や量を目的とした作業よりも、社会性や質を目的とした問題提起と解決。
といった特徴があると考えています。
つまり、【人の役割】と【人に求められる役割と評価】が、今とは大きく変わってくる、ということです。
そんな未来の世界における「はたらく姿」と、自分たちが大事にしたい、「やりたいこと」や「できること」が、教育や学びとどう関係するのかを、より深く理解するために、「しごと」の観点から改めて考えてみます。
【変わる、人の役割】
既存の作業を繰り返す/“労働”/定常業務
初めての問題に取り組む/“はたらく”/プロジェクト活動
Repetitive activities (“Operations”) and Unique Endeavor (“Projects”)
量を追求した「労働」からの解放、質を追求する「はたらく」人の増加
○ 将来、人は多くの「労働」から解放される? ○
減る従来の「労働の姿」 :大量の商品を作る売る、大量の関係資料作成や書類の処理がしごと。
変わる将来の「労働の姿」:大量作業を担うAI/ロボットを補助する故障対応やメンテナンスがしごと。
○ 労働=賃金・報酬を得るために、体力や知力を使ってモノ・サービスを生産すること。 ○
○ 教育=国(文科省)→教育委員会→学校→教員→学生 ○教育のゴール:教育を受けて育成された個人が、労働者として経済へ参加すること。
教育の目的 :経済の成長のために、生産活動ができる労働者を育成すること。
教育の主体 :国(政権の政策・文科省)が主体となって、何(教科と中身)を教えるかを決める。
戦後のモノ不足の時代、少しでもはやく人々の生活水準を改善しようと、モノの生産が急ピッチで進められ、日本、そして世界経済は発展を遂げた。
しかし、今あたりを見回してみると、モノが売れず、その価値が下がり、デフレが起きているような状況だ。つまり、既にモノは溢れている。似たようなモノをたくさんつくったところで、消費者は価値を見出せないし、そもそもニーズがないのだ。
さらにその「商品の大量生産」を前提とするマニュアル化・仕組み化された繰り返し作業の多くは、近い将来、AI/ロボットが普及・代行することになる。つまり、多くの労働者が「繰り返し作業」の労働からは解放されるのだ。
どの仕事が人の手を介せずAI/ロボットのみで行えるのか?人間の補助が必要なのは、どれくらいなのか?職業や職種単位で見てしまうと、AI/ロボットに移行される職業や職種は見えにくいが、すべてのしごとを「発想する・設計する・作る/処理する・修理する・廃棄する」という一連の流れで構造化して読み解くことで、AI/ロボットが担う役割がクリアに理解できる。
◎ 将来、人はできること・やりたいことで「はたらく」? ◎
従来の「はたらく姿」:直面した問題に対して、経済活動を土台としたモノ・仕組みによる解決がしごと。
将来の「はたらく姿」:大小あるコミュニティのありたい姿を描き、到達へ向けた問題解決がしごと。
◎ はたらく=本来の「やりたい」から増えた「できること」で、周りを楽にすること。 ◎
◎ 学び=学生→サポーター(教員含む)→専門家 ◎学びのゴール:得たい学びを選択できる、尊重された“はたらく個人”となり、社会へ参加すること。
学びの目的 :個人の尊重を目的とした、成熟した社会を実現すること。
学びの主体 :個人が主体となって、何(知識・技術 ※現行の教科を含む)を学ぶかを決める。
戦後の復興と大量生産の時代、たくさんの新しいモノの流通・普及と同時に、日本各地でインフラ整備が進み、これによって経済成長と社会生活の向上が強くつながっているような感覚を人々にもたらした。
しかし、モノが十分に行き渡ってからもなお、大量生産を続け、処理しきれない量のゴミ(数万年以上も被害が残るような放射性廃棄物を含む)を生み出しながら、現代の社会生活はおろか未来の子どもたちが生きる地球環境をも脅かすようになっている。未だブレーキの踏みどころを見いだせずにいる中で、もはや経済は問題を解決する装置ではなく、問題を生み出す装置になっていることに多くの人が気づき初めている。
はたらく価値の主体が、足りないモノを補うことから、生活の便利さや物質的な豊かさと引き換えに生んでしまった問題を解決することへとシフトしはじめた。そして近い将来、誰かが1度経験した作業はAI/ロボットがほぼ代行できるようになる。
わたしたちは、与えられた作業を繰り返す「労働」からついに解放され、自分自身と自分が暮らすコミュニティ(社会)の可能性を追求できる一人として、「自分がどうなりたいか?」という本来の自分の意志である私的領域と、「共に暮らす人、コミュニティをどうしたいか?」という社会的な公的領域とのバランスを取りながら、発想・設計から始まる活動に存分に取り組むことができる。
【参考】
・AI+ロボット(Rethink Robotics:バクスター) - なぜ、私たちはロボットに頼ることになるのか?
・AI(IBM:人工知能ワトソンのクイズ番組挑戦) - Final Jeopardy! and the Future of Watson(日本語字幕)
・ロボット(HONDA等:最新ロボット) - Next Generation Robots – Boston Dynamics, Asimo, Da Vinci, SoFi
【変わる、人に求められる能力と評価】
定期的な繰り返し作業・ルーチンワークの“定常業務(通称:量のしごと|処理するしごと)”
都度、新しい問題解決に取り組む“プロジェクト活動(通称:質のしごと|しごとをつくる)”
How would we use our life time?
大人数の平均能力[量]より、ひとりひとりが持つ個々の高い特殊能力[質]
○ 国の与えた「教育」で定めた、労働者の姿とは?(国が求める人材像) ○
作業中心の定常業務 :毎年・毎月・毎日単位の繰り返し作業を、指示/命令に従って実行する。
従来、求められた能力:経済性の最大化を目的に、同じことを少ないミスで管理運営する能力。 また、トラブルを素早く正確に察知し、正確に対応修正する能力。
現在でも一定数残っている従来の労働者が従事するしごとでは、指示/命令に従って同じ時間に同じ場所で同じ作業を繰り返し、少ないミスで管理実行できる能力が求められ、作業を正確に完了できる能力が高い評価を得られます。言い換えれば、労働能力の評価は、処理した労働時間の量と作業の量(作った製品、販売した商品、処理した書類)の「量」で測ることが前提になっています。
(2020年の東京オリンピックを例としても、国の第一目的である経済成長を促進するために、国の巨大な予算を元に企業へ指示/命令し、企業の資本力を元に労働者へ指示/命令するという構図の中で、労働者は労働基準法で守られている反面、所属する組織の命令/指示に従うことが原則として義務付けられています。)
経済成長を最優先に考える国・企業の立場から見れば、AI/ロボットの導入が進むほど経済競争が有利になることは誰の目にも明らかで、巨大な資本を持つ国や大企業がテクノロジーの普及と進化を積極的に推進することは避けようがなく、大量のマンパワーを要する作業の処理が求められる状況下では比較にならないほどに小さい人間の能力では太刀打ちできません。
別の側面として、繰り返し作業は熟練する反面、新しいことへの挑戦や失敗への心理的抵抗が醸成されやすく、指示/命令以外のしごと(特に発想する・設計するしごと)には基本的に向きません。
また、仮に新しい製品やサービスのアイデアが生まれた場合でも、第一目的にある数字(売上アップや費用削減)に貢献する事業や業務の内容であれば、購入者や自然環境に悪い影響を与えてしまうような社会的な問題を含んでいたり損害を生み出す原因になっていたとしても数字を建前に実行されてしまい、その事業内の繰り返し作業の中で間接的に気づかず無意識に荷担してしまうという構造的な労働の問題があります。
○ 定常的な繰り返し作業はAI・ロボットが担当し、人は「労働」から解放される ○
◎ ひとりひとりの「学び」で変わる、はたらく人の姿とは?(人の本来の姿) ◎
課題中心のプロジェクト活動:自分のやりたい・できることでプロジェクトに参加し、課題を解決する。
将来、求められる能力 :「ありたい姿」の実現を目的に、個々の課題を解決できる個々の特殊能力。
わたしたちは自分のしごとについて「労働」なのか?もしくは「はたらく」ができているのか?自分自身を振り返り、立ち止まって考える時期に来ているのではないでしょうか。動画「AI+ロボット(Rethink Robotics:バクスター)」中で、工場に長年勤務している高齢の女性従業員が語った「自分の子どもには、このしごとをさせたくない。もっと良いしごとをさせたい」というコメントが印象的です。あなたのしごとは自分のこどもに積極的にさせたいしごとと言えますか?
目の前のしごとに取り組み経済活動をしていれば、自分も社会の一部を作ることができている時期もあったことは確かですが、今現在やこれからの未来は必ずしももそうとは言えません。わたしたちが労働から解放され時間を得られたら、一人の人間として何を感じて何を考え何を行動に移すでしょうか。毎日の「労働」がなくなっても、すぐにやりたいことは見つからないかもしれません。それでも、子どもの頃のことを思い出したり、隣の人を見て感じたり考えたりする中で、きっと身体がウズウズし始め自然と行動してしまうことでしょう。
大量生産のための“平均的な能力”が必要とされた時代から、一人一人が個性として持つ特殊能力が活かせる時代が、やっとそこまで来ています。盲目のピアニストとして有名になった辻井伸行さん、魚類学者でタレントのさかなクン、100人以上の体制で見つけられなかった行方不明の幼児をたった30分で見つけたボランティア活動家の尾畑さんをはじめ、たくさんの人が自分の「やりたいこと」を「できること」に転換して個性を伸ばしてしごとをつくり、自分のできることで自分の望む社会をつくる一員として活動を始めています。「ありたい姿」や、問題を提起・解決する取り組み(地域を善くする、困っている人を助ける etc)、そしてそれらの成果の「質」が、はたらく能力の評価になると、ワクワクして自ら動き出す人がもっと増えそうです。
世界中で接続されたネットワークと翻訳ツールの進化によって、距離的な壁と言語の壁が無くなろうとしています。世界中の人同士が、必要な時に必要な個々の才能や技術を活かし、距離と言語の壁を越えて一緒にプロジェクトを推進できるようになっています。動画「ロボット(Da vinci等:最新ロボット)」で紹介されている手術用ロボットアームDa vinciを使った遠隔の外科治療が、対話や議論は遠隔で行い、現地作業は現地のAI/ロボットが担当し人が補助をするという新たな「はたらく」姿の一例として、イメージしやすいかもしれません。
わたしたちの暮らしをテクノロジーが強力にサポートしてくれる未来で、「はたらく」自分は何をしているでしょうか。次の世代の子どもたちがどんなしごとをしている姿を、わたしたちは望むでしょうか。今の世代を生きるわたしたちの本来の役割は、自分たちが望むより善い社会を自分たちでつくり、未来で暮らす次の世代に渡すことです。
一緒に考え一緒に活動するために、国の意向に基づいた「教育」だけではなく、自分の意志として何をどう「学ぶ」かについて、改めて考え直す時期に来ているのではないでしょうか。
◎ やりたいこと・できることで、しごとと自分が望む社会を自分でつくる「はたらく」 ◎
【参考】
・盲目のピアニスト :辻井伸行さん - 辻井伸行の母はどう息子の才能を見抜いたか…
・魚類学者・タレント:さかなクン - 未来の大成績は破滅的で、発達障害…それでも母は息子を…
・ボランティア活動家:尾畑さん - 「大臣が来ようが関係ない。罰を受けても直に家族にお渡し…
今回はここまでです。
まずは、「労働」と「はたらく」の時代的な背景の違いと今後について考え、しごとに必要とされる「教育」と「学び」がどう変わっていくのか?少しはイメージを共有できたのではないでしょうか?
考えを深めていく中で微調整はあるかもしれませんが、家庭内や地域内または学校内や社内で、話し合いのきっかけとなる一つの結論(共通に「善い」と考えられる一つの答え)を提示できたと思います!
次回予告 【変わる学び:実プロジェクトで学ぶ】
定常業務に求められる「教育」が「与える能力」
プロジェクト業務に求められる「学び」から「得る能力」
Learning to change. Learn from a real project.
├プロジェクト5:親と子どもと学び方、何が変わる?
├アクティブラーニング実例:そうはいっても難しそう、本当にできるの?
・【Q&A】想定されるリスクや課題って何があるだろう?どう対策する?
※参考文献