品質管理って何をするんだろう?
以前、「『品質』ってなんだろう?」の記事で、品質とは「要件として求められる性質の達成度合い」であるとお伝えしました。この「品質」はどうやって管理すればよいのでしょうか。今回は、品質管理のプロセスについて解説します。
品質管理の目的は、限られたコストと期限の中で成果物の品質を最大限保証すること
品質管理の目的は、限られたコストと期限の中で成果物の品質を最大限保証することにあります。ポイントは、“品質を最大限高めることが目的ではない”という点。QCD=クオリティ、コスト、デリバリーのうち1つでも欠くことなく、限られたコストと期限の範囲内で適切な品質を保証するというのが品質管理の考え方です。
品質管理には、「準備フェーズ」と「運営フェーズ」があります。
品質管理の「準備フェーズ」
品質管理の準備フェーズでは、品質基準を決め、成果物が品質を満たしているかどうかを確認・保証するためのレビュー・テストの計画を立てます。準備フェーズの目的は、品質管理のスコープ(品質管理のために必要な成果物とタスクの量)を確定することです。
品質基準を決める
スコープ(要件)を決める中、成果物の量が決まった時点で品質管理がスタートします。
(参考記事:スコープってなんだろう?)
それぞれの成果物に対して品質基準(どれくらいの品質を求めるか)を定め、合意します。例えば、文書作成の依頼で、発注者側は当然「ですます調」で統一された文書ができあがってくるだろうと思っていたところ、受注者側がつくった文書は「ですます調」と「だである調」が混じったものだった、というような認識違いが起きないよう、準備フェーズでは双方の品質基準を合意しておく必要があります。
品質基準のインプットとなる「目的・目標」「制約」「前提」
品質基準のインプットには、「目的・目標」「制約」「前提」があります。(『制約』と『前提』の違いについては『スコープはどうやって決めるんだろう?』の記事をどうぞ)
例えば、「これからつくるシステムは老人に使ってもらいたい」という目的・目標があれば、老人でも分かりやすい大きい文字で書く(アクセシビリティに配慮する)といった品質基準を保つ必要がありますね。プレゼント企画をする場合には「個人情報保護法」という制約をもとに、応募フォームに必ず掲載しなければいけない項目を満たすことが品質基準として求められます。また、Web制作のプロジェクトでは「対象ブラウザの種類」を前提として設け、対象ブラウザで問題なく表示・動作できることを品質基準として合意する場合があります。
品質基準を具体的に合意しておく
また、品質基準を定める際には、発注者側と受注者側で認識違いが起きないように、具体的に品質基準を合意しておくことが大切です。例えば、Web制作の品質基準を決める場合には、「一般的な標準規格(HTMLの世界標準など)に従う」、「既存のWebページなど具体的な成果物を示して仕上がりイメージを提示する」といった方法で具体的な基準を共有し、事前に双方の認識のズレを解消しておきます。
とはいえ、発注者側に十分な知識やスキルがない場合には、「こんなサイトにして欲しい」「こんな内容の資料をつくってください」と具体的に言い表せないことがあります。そうしたときには、受注者側から発注者側に「この成果物の品質はどのように考えていますか?」「品質の参考になる他社の事例はありますか?」などとひとこと問いかけるだけでも、品質基準の合意形成が大きく前進するでしょう。
レビュー・テストの計画を立てる
品質基準が決まったら、成果物に対するレビュー・テストの計画を立てます。このとき、どの成果物に対して、誰がどれくらいレビュー・テストを実施するかを明確にする必要があります。
具体的には、システムで同じような詳細ページを100ページ生成することになっているWeb制作プロジェクトの場合、できあがった100ページすべてをテストするのではなく、そのうち10ページのみだけ抽出してテストするといったように、レビュー・テストをする対象の成果物を決めておきます。また、レビュー・テストの回数についても、2回、3回と上限を設けるのか、双方が納得いくまで何度でもテストを重ねるのか、お互いに合意しておく必要があります。
レビュー・テストの手段や進め方を決める
品質管理の準備フェーズでは、レビュー・テストのために必要な成果物とタスクを洗い出し、担当と期限、手段や進め方まで明確にしておきましょう。
- 誰が、どこで実施するか(発注者側と受注者側どちらがするか、テストのみ外注にするか)
- レビュー・テストのスケジュール、開始条件(成果物ができあがった段階など)はどうするか
- 実施回数(双方が納得行くまでレビュー・テストをするか、上限回数を設けるか)
- レビュー・テストに必要な成果物(レビュー時のチェックリストや、テストの実施手順をまとめた仕様書)は誰がいつまでに用意するか
たとえばWeb制作の現場では、スマホ向けのサイトの動作確認をするために実機を誰が用意するか、といったこともこの段階で合意しておきます。
成果物のレビュー・テストの観点を決める
もう1つ、成果物のレビュー・テストをする際の観点を明らかにしておくことも大切です。
観点を明らかにしないままレビュー・テストに入ると、「この段階のレビューでは文言を確認して欲しかったのに、デザインばかりを見て誤字脱字が直っていない」といったことになりかねません。
品質管理の「運営フェーズ」
品質管理の「運営フェーズ」では、計画に基づいてレビュー・テストを行い、成果物が品質基準を満たしていることを確認します。
品質を確認する方法 「レビュー」と「テスト」
以前「『品質』ってなんだろう?」の記事でも解説したように、「レビュー」とは成果物ができる前の段階で中間成果物を確認することをいいます。一方、「テスト」は、成果物ができあがったあと、最初に定めた品質基準を満たしているかどうかを確認することをいいます。
テストは「小さい単位」から実施する
例えば、子どもの頃の運動会を思い出してみてください。運動会当日の本番を迎えるまでには、まず、徒競走、リレー、玉入れ、ダンスなど競技単体の練習を行い、それらが完成したあとに全体を通して総合練習をしませんでしたか? これが、いきなり総合練習から入ると、各競技の細かなルールや動線が入り混じり進行がスムーズにできないばかりか、うまくいかなかった場合にどこに問題があったのか、原因が曖昧になってしまいます。また、細かい問題のために総合練習をやり直すことになり、人手も時間も大きくロスしてしまいますね。
システム開発の現場でも、単体テスト、結合テスト、総合テストなど規模の違うテストを何度かに分けて実施しますが、修正にかかる工数を最小限に抑えるためには、
- 単体テスト(1つの機能だけで完結するテスト)
- 結合テスト(複数の機能をつなげたテスト)
- 総合テスト(全ての機能をつなげたシステム全体のテスト)
というように、必ず「小さい単位」のテストから実施するようにします。
ものづくり以外の現場では、品質管理はどうやるの?
プロジェクトの中にはものづくり以外にも、展示会といったイベントを実行するものも含まれます。一見ものづくりとは性質が違うように思えますが、イベントにも品質管理の考え方を取り入れることができます。
A社では、新システムをPRするための展示会を開催することになりました。イベント当日は入り口でパンフレットを配り、新システムのデモ機を操作してもらい、最後にアンケートを記入してもらおうと考えています。
そこで、品質管理の準備フェーズとして、パンフレットでは新システムについてユーザーにここまで伝えたい、システムのデモ機ではここまでの動作を体験してもらいたい、アンケートはイベントの目標に沿った項目を盛り込む、といった品質基準を定めます。次に、パンフレットやデモ機、アンケート項目が品質基準を満たしているかを、いつ、誰にレビューしてもらうか(上司、専門会社、専門部署など)など、レビュー・テストの手段・方法を決めます。また、ものづくりの例と同じように、レビュー・テストの観点をあらかじめ網羅しておくことも重要です。
ものづくりの現場では実際にできたものを動作することがテストにあたる一方で、展示会等イベントではシミュレーションやリハーサルをもってテストに代えます。例えば、ブースを設置してみたが、デモ機設置ブースとアンケート記入ブースが近すぎて混雑し、満足にデモ機を触れなかった、アンケートの記入をあきらめたということが起こらないかどうか、お客さまになりきって現場で確認することが運営フェーズの「テスト」に当たります。
このように、準備フェーズで「品質基準」と「品質を確認するためのレビュー・テスト計画」を立て、運営フェーズで「レビュー・テストを実行し、品質を確認する」というプロセスは、ものづくりであってもイベントであっても同じなのです。
まとめ
- 品質管理の目的は、限られたコストと期限の中で成果物の品質を最大限保証することである
- 品質管理の「準備フェーズ」では品質基準を決め、レビュー・テストの計画を立てる
- 品質管理の「運営フェーズ」では、計画に基づいてレビュー・テストを行い、成果物が品質基準を満たしていることを確認する