リスク管理って何をするんだろう?
プロジェクトに支障をきたさないよう事前にリスクを洗い出し、影響を最小限に抑えるために対策を講じることは、プロジェクトマネジメントにとって大切なことです。今回は、リスク管理についてお話をします。
リスク管理とは、把握したリスクに対策を講じること
リスク管理とは、プロジェクトにおけるリスクを洗い出す、または都度把握したリスクを一覧化して、リスクごとに発生確率と影響を把握し、対策を講じてリスクが顕在化していないか監視するまでの一連のプロセスをいいます。リスク管理は、リスクが実際に顕在化した場合にプロジェクトが受ける影響を最小限にすることが目的です。
リスク管理のプロセスは大きく2つ、
- リスクを把握する
- 把握したリスクに対策を講じる
に分けられます。
1.リスクを把握する
1-1.リスクをもれなく洗い出す
リスク管理で最初にすることは、プロジェクトにおいてどんなリスクが潜在しているかを把握することです。ここで重要なことは、リスクをもれなく洗い出すこと。リスクは「時系列」に、「MECE(もれなくダブりなくという考え方)」で分けてとらえると抜け漏れを防ぐことができます。
リスク管理の身近な例として、家族で震度7クラスの大地震に備える場合を考えてみましょう。まず、地震が発生したあとのシーンを時系列で挙げます。想定されるのは、「地震発生直後」「避難所での避難生活」「避難所から自宅へ戻ったあと」といった大きく3つのフェーズです。
次に、発生が想定されるリスクを時系列ごとにMECEに分けて洗い出していきます。大きな地震が発生するとライフラインが寸断され、「衣」「食」「住」がままならない生活を余儀なくされます。この「衣」「食」「住」をMECEなフレームとして、リスクを洗い出してみましょう。
「地震発生直後」に想定されるリスク
- 衣:歩き慣れない靴だと避難しづらい
- 食:ガスコンロや電子レンジを使った料理ができなくなる、食糧が不足する
- 住:大型家具の転倒による怪我、生命の危険
「避難所での避難生活」に想定されるリスク
- 衣:夜寒くて眠れず、健康を害する
- 食:同じようなメニューが続き栄養バランスが偏る
- 住:プライバシーが保たれず、ストレスがたまる
「避難所から自宅へ戻ったあと」に想定されるリスク
- 衣:家にあった衣服がダメージを受けて着られなくなる
- 食:道路が寸断され物流が滞りスーパーは品薄の状態になり、食材が確保できない
- 住:自宅が住めない状態にまで損壊し、住む場所を失う(仮設住宅に住む)
このように、時系列ごとに「衣食住」について想定されるリスクを抜け漏れのないよう把握します。
プロジェクトマネジメントの現場では、スコープ、スケジュール、成果物それぞれについてどんなリスクがあるか、「マネジメント対象別」にMECEに分けて考えます。
1-2.把握したリスクを評価する
リスクをもれなく把握したら、次に「発生率」と「影響度」の2軸でリスクを評価していきます。リスクの評価が定まることで、リスク対策の優先順位が決まります。
具体的に、リスク評価とはどのようにするのか、何をすればリスクを評価していることになるのか、「震度7クラスの地震が発生した場合、食糧不足に陥るリスク」を例に挙げてみてみましょう。
このリスクを、「震度7クラスの地震発生率」と「食べ物が確保できなくなる可能性(影響度)」の2軸で評価します。
軸1:震度7クラスの地震発生率
→75%以上=A、50%=B、25%未満=C
軸2:地震発生からどれくらいの期間食べ物が確保できないか(影響度)
→1週間食べ物が確保できない=C、2週間食べ物が確保できない=B、それ以上の期間=A
上記のように発生率・影響度をそれぞれ段階別に分けたら、国の防災ガイドラインから、
- 自分が住んでいる地域は地震の発生率が50%=「B」
- 食べ物が2週間以上確保できないことは考えにくい=「B」
に当てはまることを導き出します。その結果「震度7クラスの地震が発生した場合の食糧不足のリスク」は「B×B」であると評価され、ほかのリスクと比較して発生率・影響度が高ければ優先して対策を講じます。
2.把握したリスクに対策を講じる
2-1.把握したリスクに対策を講じる
洗い出したリスクを評価したら、リスクの影響を回避・軽減するための対策を講じましょう。以前「4種類のリスク対策 ~予防・軽減・移転・容認~」の記事でも紹介したとおり、リスク対策には「予防・軽減・移転・容認」の4種類があります。リスクの発生率・影響力の大きさによっては複数のパターンを組み合わせてリスク対策をしましょう。
「予防策」~リスクの発生確率を低くする~
「予防」は、リスクの発生確率を低くする対策です。
「大型家具の転倒」は、震度7クラスの大地震では非常に高い確率で発生するといえます。これに固定金具を取り付けて倒れてこないようにする=発生率を抑えるのが「予防」です。
「軽減策」~発生しても影響を小さくする~
発生したリスクの影響を小さくする対策を「軽減」といいます。
地震によってあなたの身上に大型家具が倒れかかってくるとしたら……。生命の危険すら感じるシチュエーションですね。この場合、けがをしないよう緩衝材を貼っておく、軽い素材でできたたんすを使用するなど、リスクが発生したときの影響を小さくする対策が「軽減」です。
「移転策」~影響をほかに移す~
「移転策」はリスクによって生じた影響を第三者に移す対策です。
地震によって家財道具が壊れたり、家屋が損壊して家を建て直さなくてはいけない状況になったとき、金銭的な被害を保険会社に移せるよう地震保険付きの火災保険に入っておく、というのがこれに当たります。
「容認策」~なにもしない~
発生率が低い、影響力が小さいといった優先度の低いリスクに関しては、敢えてなにもしない「容認策」をとることもあります。壊れてもいい安物の家具だから特に対策はしない、自宅に井戸があるから水道が止まっても大丈夫(水の備えはしない)、などが容認策の例です。
2-2.把握したリスクが顕在化していないかどうかを監視する
ここまで、リスクを把握して発生率・影響力から対策を講じました。備えあれば憂いなしですね。次に、想定したリスクが顕在化していないかどうかを監視するフェーズに移りましょう。
ところで、リスクには「ここからはもう発生する可能性がありません」という監視期限があります。監視するリスクは多ければ多いほどその対策も含めてマネジメントコストは増大するので、リスク管理自体の負荷を下げるために、監視期限が来たら監視対象から外していくことが重要です。
例えば、1歳の赤ちゃんがいる家庭では、地震への備えとして非常食の中に粉ミルクを用意したり、着替えの中に紙おむつを入れておく必要がありますね。粉ミルクと紙おむつは非常持ち出し袋のスペースを大幅に占拠します。この子どもが3歳になり、なんでも食べられるようになって粉ミルクは不要になった、トイレトレーニングが成功しておむつがはずれたとなれば、非常持ち出し袋から取り出してしまって大丈夫(監視対象から外す)。これでまた別のものを詰めるスペースができました。
リスクの監視について、ビジネスの現場の例で考えてみましょう。
A社はコストの見直しを図るため、それまで高い料金を支払っていた制作会社B社をやめ、料金の安い制作会社Cと初めて組むことになりました。A社は制作会社Cについて「Bに比べて料金が安い分、クオリティがきちんとしていないかも知れない」というリスクを感じています。
そこで、最初の1ヶ月は特に注意してそのリスクが顕在化するかどうかを監視することにしました。1ヶ月の監視期限が経過してクオリティに問題がないようであれば、2ヶ月目以降はそのリスクは監視対象から外してよしと判断します。
「リスク対策ができていない」ことは課題である
- 「課題」=すでに起きていて解決が必要なこと
- 「リスク」=まだ起きていないが、起こったら解決が必要なこと
こうして比較すると「課題」の方が「リスク」に優先して解決すべきという印象を抱かれてしまうのか、リスク対策はなおざりにされがちです。しかし、リスクが分かっているのに対策を講じないというのは、それ自体が「課題」なのです。これから起こる事象を回避してプロジェクトへの影響を最小限に抑えるという意味で「リスク対策ができていない」という事実を課題として捉え、課題解決の期限(=リスク対策をする期限)と担当者を設定し、きちんと対策を施すようにしましょう。
たとえば、あなたは猫を飼い始めたとします。家に引き取ってきたばかりの頃はトイレの場所を覚えていないため、トイレを覚えるまではそれ以外の場所で用を足すことがないよう、常に監視をしなければなりません。
このように、リスクが顕在化しないか監視をすることも必要ですが、一方で、トイレ以外の場所で用を足してしまった場合に備え、新聞紙やビニールシートで養生しておくなどのリスク対策をすることが大切。リスクが発生した場合の備えがないというのは、課題の解決策を考えず、「課題を放置している」のと同義です。
先ほどのA社と制作会社Cの例では、A社が1ヶ月間、制作会社Cの成果物をチェックし続けるということはもちろん大切です。同時に、その結果「やはりCには任せられない」という場合に備え、代わりの制作会社を念のためリストアップしておくといった対策をしておくことで、リスクが顕在化したことで浮上した「課題」に迅速に対処することができます。
まとめ
- リスク管理とはプロジェクトにおけるリスクをもれなく把握し、リスクごとに発生確率と影響を把握して対策を講じるまでの一連のプロセスをいう
- リスクの監視をする段階では、リスク管理の負荷を下げるために監視期限を設定する
- 「リスク対策を講じていない」ことは、「課題」である。「リスク対策ができていない」という課題にも期限を設定することは必要不可欠である