”ありたい姿”の描き方 後編 ~より善いコンセプトデザインのすすめ(5ー7/7)~
プロジェクトの目的は、継続できる根拠を持って設定できていますか?
3回に分けてお届けしている、
『“ありたい姿”の描き方』ですが、前編では目的設定の準備
・なぜ、“ありたい姿“を描くのか?
・そもそも、“ありたい姿“とは何か?
・“ありたい姿”と、“あるべき姿”は何が違うか?
について考えを深めてきました。
後編では、途中までご紹介した続きの手順と合わせて、最初から最後までを通した具体例をご紹介します。
“ありたい姿”を設定する手順
<目次>
1.“ありたい姿”を描く対象は何か?
→対象の焦点を定める。
2.”ありたい姿”の対象に近い誰か?
→“ありたい姿”を仮置きする。
3.対象を取り巻く外部環境がどう変わり、”ありたい姿”がどう影響を受けるか?
→変化する可能性が高い外部環境と、受ける影響を洗い出す。
4.ありたい姿に到達するために、従うべき原理・原則は何か?
→従うべき原理・原則を設定する。
5.現状と、”ありたい姿”の差(問題)は何か?
→解決すべき問題を特定する。
6.(3.)~(5.)を踏まえて、仮置きした対象(2.)の何を変えるか?
→自分ができること・やりたいこと・求められていることを元に調整する。
7.(1.)~(6.)を3回以上繰り返し、”ありたい姿”の精度を高める。
5.現状と、”ありたい姿”の差(問題)は何か?
→解決すべき問題を特定する。
(2.)から(4.)の手順で洗い出したことで、(1.)で定めた対象に”ありたい姿”の輪郭が少しずつ見えてきます。
洗い出した内容を踏まえて、現状を比較し問題を特定します。
・(2.)で挙げたベンチマークしている他者と、現状の自分や所属する組織を比較して何が足りないか?
・(3.)で洗い出した外部環境の変化から、どんな影響を受けるのか?
・(4.)で設定した従うべき原則・原理(ルール)と、実際の自分自身の言動や組織の発信・アクションを振り返ると、何がOKで何かNGか?
を問うことで、自分・組織の現在位置と”ありたい姿”との差を明らかにします。
再び大谷選手の例を挙げると、目標とする急速に〇キロ足りない、ファンにより応援される人間になるために伴っていない言動がある、外部環境の変化を想定すると打撃面・守備面・投手面・走塁面で技術的な差がある、といったように、自分の現在位置と”ありたい姿”の差を比較します。
6.(3.)~(5.)を踏まえて、仮置きした対象(2.)の何を変えるか?
→自分ができること・やりたいこと・求められていることを元に調整する。
手順の(1.)と(2.)では、“ありたい姿”としての対象を設定し、参照する他者から“ありたい姿”を仮置きしました。
この手順では、仮置きした対象と“ありたい姿”の差を比較して、何を足さなければいけないか、何を引けばよいかを考えます。
例えば、大谷選手の場合には、8球団からドラフト1位指名を獲るプロ野球選手になるために、より球速が速くなるために強靭な下半身をつくる、ホームランバッターになるために体幹づくりをする、1つでも向こうの塁に立てるように走塁の技術を磨くなど。
バスケットボールのプロリーグの場合には、日本でプロスポーツとして持続可能な運営ができるバスケットボールリーグになるために、地域との関係を強化する、海外とのレベル差を埋めるため海外の一流選手やコーチを○人連れて来る、各球団への負担が大きく効果があいまいでな不要な運営ルールを減らすなどが挙げられます。
7).(1)~(6)を3回以上繰り返し、”ありたい姿”の精度を高める。
(1.)〜(6.)の手順で“ありたい姿”を仮置きしたら、ここまでの手順を最低3回を繰り返して考えを深めることで、やりたいことや“ありたい姿”をより具体化することができます。
自分自身の頭の中だけではなく、できれば他人に話したり、手書きでも書いてみてレビューを依頼してみましょう。
もしも人から意見をもらうことができなくても、話す・書くという人に伝える準備をする行為ことで頭が整理され、結果としてそれぞれの手順で何が足りていて何が足りていないか、視野が狭くなっていて見落としていなかったポイントなど必ず発見があり、目的設定の精度を高めることができます。
“ありたい姿”の描き方を具体例で解説
ここからは、“ありたい姿”の描き方をより具体的にとらえられるよう、最近盛り上がりを見せる働き方改革にならって、自分の会社の働きやすさを例に考えていきます。
(1.)“ありたい姿”を描く対象を決める。
「働き方」を対象とする。
(2.)近しい他者、参照する他者から“ありたい姿”を仮置きする。
IBM・カルビー・ロート製薬・Yahooなど、多用な働き方を認めている他社の事例を参照する。
(3.)従うべき原理と原則(ルール)を置く。
- やりたいことにチャレンジできる。
- 自分の意思を伝える場所がある。
- 受け取ってくれる環境がある。
- 学びたいことを応援される。
- 家庭の事情に関係なく誰もが働きやすさを得られる。
- 小さい子どもがいても働ける会社でありたい、
- 地方にいても働ける環境を整備したい、
- 妊娠した女性従業員に退職を勧めない、など。
- 世の中の役に立っている実感が得られる。
- 製品やサービスを通じて、貢献できている。
- 製品やサービスが、新たな問題を生んでいない。
- 困っている誰かの役に立てていることがモチベーションにつながる。
(4.)対象を取り巻く外部環境の変化と、受ける影響を洗い出す。
P:政治→先進国になら倣い、同一労働同一賃金、副業の解禁、残業の禁止が進む。
日本国内においては、公共事業をベースとした雇用を生み出せなくなる。
E:経済→GDPは微増しているが、債務は急増している。
中国やインドが経済大国になる。
S:社会→少子高齢化による介護世帯と、共働き世帯がますます増える。
食の安全や環境に対する関心が高まる。
T:技術→世界がよりオンラインでつながり、同時通訳やホログラムによる会議が可能になる。
AIや機械が多くの人の仕事を代替してくれる。
(5.)自分の現在位置と”ありたい姿”の差(問題)を洗い出す。
他社・世界に比べて在宅勤務・リモートワークへの対応が遅れている、会うこと・そこにいること・成果よりもやったことがシゴトの中心になっている、上層部の理解が得られていない、
産休・育休や時短勤務に対する理解が十分に浸透していない、時間から成果への働き方に移行するには現場メンバーの心理的な抵抗がある、など。
出社できない一部の人に限られ、希望者が誰でも在宅勤務・リモートワークを選択できない。
消極的リモートワークではなく、積極的リモートワークが”ありたい姿”。
(6.)仮置きした対象と“ありたい姿”を調整する。
自由な働き方になれば勤怠管理が不要になり、成果を達成できれば時間の制約はなくなる。
会社と個人の関係が変わり、複数の会社に所属することや、複数のプロジェクトに携わることが当たり前になる。
企業としても閑散期の人件費負担を軽減することができ、個人としても新しいことにチャレンジができる。
(7)(1.)~(6.)を3回以上繰り返す。
最後に、(1)~(6)までのプロセスを3回以上繰り返して“ありたい姿”を具体化します。
ここで設定された“ありたい姿”が、自分の会社だけでなく世の中に共通して善い働き方であれば、社会的にも求められている公共性として認知され、“あるべき姿”として合意がされた働き方になります。
公共性についての先進国の例では、「個人を尊重する」「(お金の多い少ない、生まれた環境の影響を最小限に)機会と結果を平等にする」「業務時間外の業務連絡の禁止」などが挙げられます。
まとめ
- 自分・組織の現在位置と”ありたい姿”の差(問題)を洗い出す。
- 仮置きした”ありたい姿”と現状の差を調整する。
- 話す書くという人に伝える準備をしながら、手順を3回以上繰り返し”ありたい姿”を具体化する。
明日からやってみよう!
- 「自分が関係している組織やコミュニティの”ありたい姿”は、どう考えているか?」について、メンバーやマネージャーと話してみよう!
あわせて読みたい
”ありたい姿”の描き方 前編 ~プロジェクト立ち上げに向けての前準備:コンセプトデザイン~