”ありたい姿”の描き方 前編 ~プロジェクト立ち上げに向けての前準備:コンセプトデザイン~
プロジェクト立ち上げ時に「目的」を、自信をもって設定できていますか?
プロジェクトには目的と期限の設定が必要ですが、実際に自信が持てる「目的」を置くのは意外に難しいものです。いきなり目的から考えてしまうと、実は後で設定した目的が筋が悪かったという事態はよく起きます。
目的を定める前に、まずは”ありたい姿”を描くことが準備として必須になります。 逆に、”ありたい姿”を描けると、ほとんど目的が定まったと言っても過言ではないでしょう。
今回の前編、次回以降の中編・後編の3回に分けて、「目的」を設定するために、どういう順番で考えれば“ありたい姿”を描けるのか?について解説します。
なぜ、“ありたい姿”を描くのか?
目的を設定する準備として“ありたい姿”を描く理由は、以下の3つです。
・ゴールから逆算するため
・最短距離で目的にたどり着くため
・筋の悪い目的を設定しないため
“ありたい姿”がはっきり見え、強い根拠でしっかりと指せえられていれば、目についた作業から手をつけてしまったり、潤沢な資源(お金・労・も時間など)を使って活動しても思うような成果が得られなかったり、目的と思っていたが実は手段だったり、というような本来必要のない遠回りを防げます。
例えば、ふと思い立って手元にある材料で麻婆豆腐をつくろうとしてみたけれども、材料が足りなかったり、思うような味にならなかったりする可能性があります。
四川風なのか日本風なのか、辛めなのか甘めなのか、本格的なのか家庭的なのか、同じ麻婆豆腐でも”ありたい姿”はいくつものパターンが考えられえます。
より正確に定めた麻婆豆腐の”ありたい姿”を描ければ、それにあったレシピを調べ、必要な材料の調達や下ごしらえができ、求めていた美味しい麻婆豆腐ができあがる確率は高くなります。
そもそも、“ありたい姿”とは何か?
“ありたい姿”は、理想とも言いますが、自分(自分たち)が望む状態です。
もう少し具体的には、制約や前提条件を全て外して、全てが自分の思い通りになったとしたらどうありたいか?というゼロベース思考に基づいて導き出された状態を言います。
制約や前提を外すというのは、男である、女である、時間やお金の有無、それを実現するためのスキルがないなど、一切の条件を外すという意味です。なお、“ありたい姿”は、1つだけとは限りません。
個人で言えば、精神・身体・ライフスタイル・容姿、組織で言えば、お金・モノ・従業員・社会との付き合い方など、性格的、身体的、経済的・社会的などの対象ごとに、”ありたい姿”複数存在します。 ちょっと欲張りなようにも思えますが、制約や前提なく考えるのは自由です!
”ありたい姿”の例:日ハム・大谷翔平選手が活用した“ありたい姿”を描き出す目標達成シート
“ありたい姿”を描く1つの例として、プロ野球日本ハムファイターズで過去までの常識を破る投打の二刀流選手として活躍する大谷翔平選手の目標達成シートを取り上げてみましょう。
大谷選手は学生時代、プロ野球選手という目的を達成するため、目標達成シートを活用して、より具体的に自分自身が目指すプロ野球選手としての“ありたい姿”を描いていました。
大谷選手の目標達成シートは全部で9×9=81のマスに、実は9つの”ありたい姿”で構成されています。
※参考:【目標計画】大谷翔平が高校時代に立てた目標達成シートがビジネスでも使える!
- 8球団からドラフト1位指名を受ける(状態)
- プロ野球選手で通用する体ができている(状態)
- プロ野球選手で通用するメンタルが備わっている(状態)
- プロ野球選手として、ファンに愛される高い人間性を備えている(状態)
- プロ野球のピッチャーとして、正確で安定したコントロールで投げられる(状態)
- プロ野球のピッチャーとして、キレのあるボールが投げられる(状態)
- プロ野球のピッチャーとして、160km/hのスピードボールを投げられる(状態)
- プロ野球のピッチャーとして、多様な変化球を投げ分けられる(状態)
- 運を味方につけられる(状態)
※イメージしやすいように、独断で少し意訳・補足して文章になっています。 上記の例を参考に、身近な例に置き換えてみると、
- ビジネスマンとして、アイデアを求められたときに何か一つは答えられる(状態)
- 営業マンとして、他部署から信頼される社内トップの成績を誇る(状態)
- プロジェクトマネージャーとして、複数の企業から指名される(状態)
- 親として、子ども達を信頼して自己肯定感を与えられる(の状態)
- 地域の一員として、地域のトラブルなどいざという時に頼りにされる(の状態)
- 人間として、いろんなことに挑戦したり、休みたいときにゆっくり休める勇気を持った(の状態)
など、対象毎に異なった“あるべき姿”を書き出しすと、ふわっと感じていた”ありたい姿”の輪郭をより具体的により明らかにができます。
“ありたい姿”と、“あるべき姿”は何が違うか?
“ありたい姿”と似た言葉に“あるべき姿”というものがあります。 両者の違いは、“ありたい姿”が自分の視点から設定する姿であるのに対し、“あるべき姿”は、外部の視点を交えても共通に”善い”と合意ができる姿です。
つまり、“ありたい姿”に公共性の要素が加わると、“あるべき姿”になります。
【Wikipediaより:公共性の定義例】例えば、齋藤純一『公共性』(岩波書店)は、公共性をofficial、common、openの3つの意味に分けている。
official(公務員が行う活動が帯びるべき性質) 国家や地方自治体が法や政策などに基づいて行う活動。 例: 公共事業・公共投資・公的資金の投入・公教育・公安の維持。 対比されるもの: 私人の営利活動。
common(参加者、構成員が共有する利害が帯びる性質) 共通の利益(公共の福祉)の追求・共有財産(公共財)の維持管理・共有する規範(常識)の創出・共通の関心事(ニュース)などの伝播。 例: 公益・公共の秩序・公共心・世間(せけん)。
対比されるもの: 私有権・私利私欲・私心。 open(公共的なものが担保しなくてはいけない性質) 誰もがアクセスすることを拒まれない空間や情報。 例: 情報公開・公園等の公的空間。 対比されるもの: 秘密やプライヴァシー・私的空間。
プロ野球やJリーグ、プロバスケットボールなど、プロスポーツは地域に根ざしたものが多く見られますが、自分だけが活躍して良い給料をもらえればいい、自分のチームだけが得すればいい、自分のチームの地域だけが特別扱いされればいいという考えは“ありたい姿”です。
未来の野球選手になりたい子どもに夢を与えたい、リーグ全体が盛り上がればよい、競技人口が増やしたいといった共通に”善い”と合意ができる公共的な要素が加わってくると“あるべき姿”と言えます。
“ありたい姿”を“あるべき姿”へ再設定した成功例として、かつて、性質の違うそれぞれの”ありたい姿”で2つに分かれて存在していた日本のプロバスケットボールリーグを、”あるべき姿”を具体的に掲げて1つに統合し、日本でプロスポーツとして持続可能な運営ができるまでに導いた新しいプロバスケットボールのBリーグ創設における川淵三郎氏の手腕は有名で非常に参考になる例です。
まとめ
- “ありたい姿”は、制約や前提条件を全て外して、全てが自分の思い通りになったとしたらどうありたいか?というゼロベース思考に基づいて導き出す、自分が望む理想の姿で一つではなく対象毎に複数ある。
- “ありたい姿”はが自分が設定する姿であるのに対し、”あるべき姿”は外部の視点を交えたと共通に”善い”と合意ができる姿である。“ありたい姿”に公共性を加えて設定する姿であるが加わると、“あるべき姿”になる。
- ”ありたい姿”・”あるべき姿”は、大谷選手やプロバスケットボールのBリーグの事例のように、伝えられた相手が具体的にイメージできるように設定する。
記事から”あるべき姿”の読み解きをやってみよう!
「Bリーグの”あるべき姿”はどのような状態か?」
を記事から読み解き、メンバーやマネージャーと話してみよう!
川淵会長「常識にとらわれるな」Bリーグ36クラブ代表者決起会 by スポーツナビ
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