2015年11月、「資生堂ショック」というキーワードが話題になりました。
女性が働きやすい企業の代表格として知られる資生堂が、子育て中で時短勤務をしている社員に対して遅番勤務や他の社員と同様のノルマを求める方針転換を行った、という内容のニュースが報道され、ネット上では資生堂に対して批判的な意見が飛び交う「炎上」状態となったのです。

この「資生堂ショック」にまつわるニュース報道について、リスク管理の観点から、株式会社マネジメント代表の音羽が解説します。

※本記事は、リンク先の報道内容(『NHKニュース おはよう日本』の記事)だけをソースとして、リスク管理を解説したものです。特定の団体や制度を評価・批評する内容ではありません。

資生堂ショック

リスクとは? リスク管理とは?

リスクの定義は、まだ発生していない潜在的な事実・状況です。
参考記事:リスクってなんだろう?

また、リスク管理とは、この将来的に発生する可能性がある事実・状況を把握し、発生時に事前対策を講じることで、発生した際の影響を直撃しないようにコントロール(できれば最小限に)することを指します。

このリスクとリスク管理の考え方を元に、『NHKニュース おはよう日本』の「資生堂ショック」の記事を参照しながら、

  • いつ・どんなリスクが想定できたのか?
  • どんな事前対策を打てば、影響を最小化できたのか?

について考えます。

いつ・どんなリスクが想定できたのか?

リスクの発生が想定されるタイミングは、以下の3つです。

  1. 2007年、美容部員への短時間勤務制度の導入時
  2. 2014年、子育て中の女性社員にも平等なシフトやノルマを与える方針転換時
  3. 2015年、資生堂ショックの報道時

それぞれ、どんなリスクが想定されたでしょうか?
※以下、(1)~(9)は、記事から読み取れる情報、因果関係を元にした仮説です。

1.2007年、美容部員への短時間勤務制度の導入時は、どんなリスクが想定できたか?

(1)短時間勤務者増による接客数減、機会損失と売上減
(2)新たな人材獲得による教育コスト増
(3)非・短時間労働者への負担増と労働者間の対立

2.2014年、子育て中の女性社員にも平等なシフトやノルマを与える方針転換時には、どんなリスクが想定できたか?

(4)家庭との両立が難しい短時間勤務希望者の退職
(5)従業員同士の対立、会社への貢献意欲の低下
(6)店頭での更なる売上減

3.2015年、資生堂ショックの報道時には、どんなリスクが想定できたか?

(7)「女性が働きやすい」企業ブランドの喪失
(8)ブランド喪失による客離れ
(9)優秀な人材確保の難易度上昇

どんな事前対策を打てば、影響を最小化できたのか?

リスク対策には、以下の4つの種類があります。

A.発生させない「予防策」
B.発生しても影響を小さくする「軽減策」
C.影響を他に移す「移転策」
D.何もしない「容認策」

リスク管理の観点からは、(1)~(9)それぞれにA~Cの対策(Dの容認策を除く)を掛け合わせて検討したとして、全部で少なくとも27通りは事前対策ができるという説明になります。

例えば、記事の中にある「資生堂が制作したビデオ」は、「(5)従業員同士の対立、会社への貢献意欲の低下」への対策として実施されたと考えられます。
その他の事前対策は記事にありませんが、例えば「(7)『女性が働きやすい』企業ブランドの喪失」に対しては、「資生堂ショック」とネガティブなラベリングをされないように、先に前向きなメッセージを発信することが対策として考えられたかもしれません。

また、少し小難しい話しになりますが、「(3)非・短時間労働者への負担増と労働者間の対立」への対策としては、「平等」と「公正」の違いについて社員にコミュニケーションすることで対立を和らげることができたかも知れません。
※「平等」はスタートラインに関わらず、全員に同じモノ・サービスを与えること。
※「公正」はスタートラインが揃うように、機会と結果が揃うようにモノ・サービスを与えること。

対立を和らげることができていれば、2014年の方針転換や2015年の報道を防げたかもしれません。

もちろん、意図的に何もしない(Dの『容認策』をとる)という選択もあります。
しかし、その場合は「予防」「軽減」「移転」といった選択肢を洗い出した後に、「容認(何もしない)」という選択が導き出されることがベストです。

新制度の導入など何かしらの打ち手を実施する際には、影響を分析しリスク対策をセットで講じると、不要なダメージを防ぐことができます。
効果的にダメージを防ぐためには、想定する影響範囲にヌケモレがないように、時には専門家も交えて複数人の視点を使った話し合いをすることが一つの方法ですね。

資生堂も今までの打ち手に対する影響を全く想定していなかったわけではないと思いますが、もし視点を変えて話し合いをしていたら、今回のケースでも下記のような問いから具体的な対策を導き出すことができたかもしれません。

  • 短時間労働の影響が多い店舗、影響が小さい店舗を切り分けることができないか?
  • 一つの制度を全店舗に導入する前に、人員の異動や店舗ごとの労働時間の調整などをパイロット的に実施できる地域がないか?

店頭以外では何が起きていたのか?

また、記事の中で少し触れておきたい部分は下記です。

会社では、競争の激化やインターネット販売への対応が遅れたなど、さまざまな要因がある中で、
美容部員がかき入れ時に店頭にいないことも原因の1つと考えるようになりました。

美容部員が店頭にいないことは確かに事実としてあるでしょう。
ただ、店頭に美容部員がいないことの影響は、「競争の激化やインターネット販売への対応の遅れ」と比較して、どれくらいの大きさだったのでしょうか?

美容部員が店頭にいないことの影響が大きく、方針転換が不可欠(別の選択肢がなかった)と仮定した場合には、上述したリスクの把握と対策が必要になります。
しかし、美容部員が店頭にいないことの影響が小さいと仮定した場合には、美容部員以外のことに対するリスク対策が必要です。
競争の激化を解消するためには、競争力のある新製品やサービスの開発をしたり競合企業を買収するといったリスク対策が、インターネット販売の遅れに対しては、ネット販売体制を強化して対応を早めることやインターネット以外の販売チャネルの開拓といったリスク対策が考えられます。

「資生堂ショック」という覚えやすい言葉によって、ニュースを聞いた私たちは「美容部員を取り巻く状況」という一部分だけにフォーカスしてしまいがちです。
ですが、視野を広げてリスクの全体像を把握すれば、限られた時間やリソースの中で最も効果的なリスク対策を検討できるということを、少しでもイメージしていただければ幸いです。

まとめ

リスク管理の観点から、「資生堂ショック」をどう防ぐことができたか?
まとめると、下記の二点と考えていますが、みなさんどうお考えになるでしょうか?

  • それぞれのタイミング(特に大きなアクションの前後)から、将来的に発生する可能性がある事象を把握すること【リスクを把握する】
  • 把握したリスクごとに、モレなく影響を把握し対策を講じること【リスクを発生させない。影響を小さくする】